安吾さんの二十歳の頃の教員時代を描いた作。

大正十四年の頃って、小学生もこんな風だったのかと面白い。

「本当に可愛いい子供は悪い子供の中にいる。子供はみんな可愛いいものだが、本当の美しい魂は悪い子供がもっているので、あたたかい思いや郷愁をもっている。こういう子供に無理に頭の痛くなる勉強を強いることはないので、その温い心や郷愁の念を心棒に強く生きさせるような性格を育ててやる方がいい・・・・・」

という件には、安吾さんの優しさがはっきり出ています。

「小学校の先生には道徳観の奇怪な顛倒がある。つまり教育者というものは・・・
・・・先生達が人間世界を悪く汚く解釈妄想しすぎているので、私は驚いたものであった。」

という所なんか、今はどうなんだろうと、詳しい人に訊いてみたい。

「私がいちばん心配なのは、あの娘は、人に愛される素質がすくない。女として愛される素質がすくない。ひねくれのせいではないのです。あの娘は人に愛されたことがないのではありませんか。先ず親に、あなた方に愛されたことがないのではありませんか。私に説教してくれなんて、とんでもないお門違いですよ。あなたが、あなたの胸にきいてごらんなさい。」

二十歳で保護者にここまではっきり言えるとは、時代なのか、安吾さんだからなのか。

「大人と違うのは、正しい勇気の分量が多いという点だけだ。ずるさは仕方がない。ずるさが悪徳ではないので、同時に存している正しい勇気を失うことがいけないのだと私は思った。」

なるほど仰るとおりです。まさに大人の言葉ですね。


青空文庫より


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